姿勢・骨格
[#49]呼吸が浅いのは姿勢のせい?ため息が増えた人の身体で起きていること
文=けんぞう(整体師・美容整体師/施術歴23年・延べ4万5千人)
こんにちは、整体師のけんぞうです。「最近、ため息が増えた気がする」「深く息が吸えない感じがする」。そんな声を、施術の現場でよく聞きます。呼吸法を試してみた方も多いと思いますが、今日はその一歩手前、「そもそもなぜ呼吸が浅くなるのか」を、身体の構造から一緒に見ていきましょう。
みなみけんぞう先生、最近ため息ばっかりついてるって、上の子に言われちゃったんです。自分では気づいてなかったんですけど、確かに深く息が吸えてない感じがして。
けんぞう先生それ、身体からのサインかもしれませんね。ため息って、ネガティブなイメージを持たれがちですが、身体からすると「もっと空気を入れたい」という自然な反応なんですよ。
みなみえっ、そうなんですか。落ち込んでるからため息が出てるんだと思ってました。
けんぞう先生もちろん気持ちの影響もありますが、身体の構造的な理由も大きいんです。今日はそこを見ていきましょう。
そもそも、呼吸はどうやって起きているのか
けんぞう先生まず、呼吸の仕組みから確認しましょう。息を吸うとき、肺が自分で膨らんでいるわけではありません。肋骨まわりが広がって、その空いたスペースに空気が入ってくる、というのが正しいイメージです。
みなみ肺が風船みたいに自分で膨らんでるんだと思ってました。
けんぞう先生よくあるイメージですね。実際は、肋骨とその間の筋肉、そして肺の下にある横隔膜という大きな膜が動くことで、身体の中にスペースができて、そこに空気が流れ込んできます。だから、肋骨まわりが動けない状態だと、それだけで入ってくる空気の量が減ってしまうんです。
けんぞう先生かなり動きますよ。深く息を吸ったとき、胸だけでなく背中側やわき腹も広がっているのが理想です。ところが、姿勢が崩れているとこの動きが制限されてしまいます。
みなみ横隔膜って言葉、聞いたことはあるんですけど、どこにあるんでしょう。
けんぞう先生肺の下、ちょうど肋骨の一番下あたりに、ドーム状に張っている膜のような筋肉です。息を吸うと、この横隔膜が下に下がって、胸のスペースが広がります。逆に息を吐くと、上に戻っていく。この上下運動が、呼吸のいちばん大きな原動力なんです。
息を吸うと横隔膜が下がり、肋骨が広がって空気が入ってきます。吐くときはその逆の動きになります
みなみじゃあ、横隔膜が動きにくくなると、それだけで呼吸が浅くなるってことですか。
けんぞう先生その通りです。そして横隔膜の動きは、姿勢の影響を強く受けます。背中が丸まってお腹が圧迫された状態だと、横隔膜が下に下がるスペース自体が狭くなってしまうんですね。
姿勢が崩れると、肋骨まわりが縮こまる
けんぞう先生ここからが本題です。背中が丸くなった姿勢、いわゆる猫背の状態を思い浮かべてみてください。この姿勢だと、肋骨まわりが前方に折りたたまれるような形になります。
みなみあ、確かに。今、意識的に背中を丸めてみたら、息が吸いにくいです。
けんぞう先生そうなんです。試しに、背中を丸めた状態で思いっきり深呼吸してみてください。次に、背筋を伸ばして同じことをしてみる。入ってくる空気の量が全然違うのが分かると思います。
みなみほんとだ、全然違います。丸めてると、途中で「もう入らない」って感じになりますね。
けんぞう先生それが、姿勢が呼吸に与える影響です。そして問題は、多くの方がこの「丸まった姿勢」を、一日の大半キープしてしまっていることなんです。
みなみ私、在宅ワークでずっとパソコンに向かってるので、思い当たります。
けんぞう先生パソコン作業、スマホ、授乳、抱っこ。どれも身体が前に丸まりやすい姿勢ですよね。この状態が長く続くと、肋骨まわりの筋肉が硬くなって、意識して背筋を伸ばそうとしても、簡単には広がらない身体になっていきます。
みなみ意識して姿勢を良くしても、すぐ戻っちゃうんですよね。
けんぞう先生それは意志の弱さではなく、身体の形がそうなっているからです。肋骨まわりや背中の筋肉が硬く縮んだ状態で「良い姿勢」をとろうとすると、縮んだ筋肉を無理やり引き伸ばしながらキープすることになります。当然、しんどいですし、気を抜けば元の形に戻ります。
みなみじゃあ、姿勢を意識するより先にやることがあるってことですか。
けんぞう先生そうなんです。硬くなった部分をゆるめて、動く範囲を取り戻すのが先。その状態になって初めて、良い姿勢が「頑張らなくてもとれる姿勢」になっていきます。
呼吸が浅くなると、自律神経の切り替えに影響する
みなみ呼吸が浅いと、疲れやすくなったりするんですか。
けんぞう先生呼吸と自律神経は、深くつながっています。自律神経には、身体を活動モードにする交感神経と、お休みモードに切り替える副交感神経があります。ざっくり言うと、息を吸うときは活動モード寄り、吐くときはお休みモード寄りに傾きやすい、という関係があるんです。
呼吸は、身体のモードを切り替えるスイッチのひとつです
けんぞう先生はい。深呼吸で「ゆっくり長く吐いてください」と言われるのは、そういう理由です。ところが、呼吸が浅い状態だと、吸うのも吐くのも小刻みになって、しっかり吐き切れません。そうすると、お休みモードへの切り替えがしにくい状態が続きやすくなります。
けんぞう先生その傾向は出やすくなりますね。しかも、自律神経は背骨近くを通っています。背中が丸まったまま筋肉が硬くなっていると、この切り替えのスイッチングがうまくいきにくくなるんです。姿勢の崩れは、肋骨の動きと自律神経、両方から呼吸に関わってくる、というわけです。
みなみ呼吸が浅いと、他にも身体に出てくることってありますか。
けんぞう先生呼吸が浅い状態が続くと、肩や首まわりの筋肉を使って息を吸おうとする傾向が出てきます。本来、呼吸は肋骨と横隔膜が主役なのですが、それが動きにくいと、首や肩の筋肉が補助として働き続けることになるんです。
けんぞう先生つながりやすいですね。一日に何万回もしている呼吸のたびに、首や肩の筋肉が少しずつ働き続ける。その積み重ねが、休まらない首・肩の状態をつくっていきます。「マッサージしてもすぐ戻る」という方の背景に、この呼吸のパターンが隠れていることは少なくありません。
睡眠の質にもつながっていく
けんぞう先生ここまでの話は、睡眠にもつながります。睡眠中は本来、お休みモードが優位のリラックス状態が理想です。ところが背中の筋肉が硬いままだと、緊張モードのまま睡眠時間を過ごすことになりやすい。
みなみ寝ても疲れが取れないのって、それが関係してるんですか。
けんぞう先生大きく関わっていると思います。「たっぷり寝たのに朝から重い」という状態の背景には、睡眠時間の長さではなく、その中身の問題があることが多いんです。そして、その中身をつくっているのが姿勢と呼吸なんですね。
けんぞう先生寝具は、正しい骨格で眠りに入りやすくするための土台として大事です。ただ、日中に固まった肋骨まわりや背中の状態は、寝具だけでは変えられません。だからこそ、日中のケアが必要になってきます。
けんぞう先生そこが盲点なんですよね。夜の身体は、日中に積み上げた状態がそのまま持ち込まれます。日中ずっと丸まった姿勢で肋骨まわりを固めていたら、その身体のまま布団に入ることになる。逆に言えば、日中に少しずつ動かしておくことが、そのまま夜の準備になっているとも言えます。
今日からできる、肋骨まわりを動かすケア
けんぞう先生ここからは、日常の中でできることをお伝えしますね。難しいトレーニングではなく、こまめに動かすことがポイントです。
一つ目は、両手を頭の後ろで組んで、ゆっくり上を向きながら胸を開く動き。デスクワークの合間に、数回やるだけでも肋骨まわりが動きます。反動をつけず、じんわり伸ばしてください。
二つ目は、わき腹を伸ばす動き。片手を上に伸ばして、そのまま身体を横に倒します。左右それぞれ、呼吸を止めずに10秒ほど。肋骨は前だけでなく横にも広がるので、この方向も大事です。
みなみ横にも広がるんですね。前ばっかり意識してました。
三つ目は、背中側を意識した呼吸。座ったまま、背中に空気を入れるイメージでゆっくり息を吸ってみてください。慣れないうちは分かりにくいかもしれませんが、背中側が膨らむ感覚がつかめると、呼吸の入り方が変わってきます。
四つ目、これが一番大事かもしれません。同じ姿勢を続けないこと。どんなに良い姿勢でも、固定され続ければ筋肉は硬くなります。30分から1時間に一度、立ち上がって身体を動かす。これだけでも、肋骨まわりが縮こまったまま固まるのを防ぎやすくなります。
みなみ完璧な姿勢をキープしなきゃ、って思ってました。
けんぞう先生それが一番しんどいやり方かもしれませんね。姿勢は「正しい形で固定するもの」ではなく、「動かし続けるもの」と考えてもらった方が、身体にとっては楽なんです。
みなみこれ、全部やらないとダメですか。子どもが3人いると、まとまった時間って取れなくて。
けんぞう先生全部やる必要はまったくないですよ。むしろ、四つ目の「同じ姿勢を続けない」だけでも意味があります。授乳のあとに一度立ち上がる、洗い物のついでに肩を回す。その程度で構いません。
けんぞう先生大事なのは、一回の質より頻度です。10分のストレッチを週に一度やるより、10秒の動きを一日に何度も入れる方が、肋骨まわりが固まりにくい状態をつくりやすいんですよ。
みなみどのくらい続けると、変化を感じられるものなんでしょう。
けんぞう先生個人差が大きいので断言はできませんが、長年かけて固まってきた身体は、数日で大きく変わるものではありません。焦らず、数週間から数ヶ月の単位で捉えてもらえたらと思います。ただ、その日の動きの直後に「息が入りやすくなった」と感じることはよくあります。まずはその小さな変化を積み重ねていくイメージですね。
よくある質問
Q. 呼吸法を練習すれば、呼吸は深くなりますか?
呼吸法自体は良い取り組みですが、肋骨まわりが硬く縮こまったままだと、広がる余地が少ないため、効きにくいことがあります。まずは身体の側を動かして、広がるスペースをつくってから呼吸法に取り組む方が、感覚をつかみやすいと思います。
Q. ため息をつくのは、我慢した方がいいですか?
我慢しない方がいいですよ。ため息は、浅い呼吸が続いたときに、身体が「まとめて空気を入れたい」と反応している自然な動きです。むしろ、ため息が増えているなら、それは身体からのサインとして受け止めてもらえたらと思います。
Q. 産後で身体が丸まりやすいのですが、いつからケアしていいですか?
産後の身体の回復ペースは個人差が大きいので、まずはかかりつけの医師や助産師さんに確認してもらうのが安心です。そのうえで問題がなければ、大きく動かす運動ではなく、深く息を吸う・肩を回すといった小さな動きから始めていくのがいいと思います。
Q. 座り方を変えるだけでも意味はありますか?
あります。特に、骨盤が後ろに倒れた状態で背中を丸めて座っている場合、座り方を変えるだけで肋骨まわりの縮こまり方が変わってきます。椅子に浅く腰かけて背中を丸めるのではなく、お尻を背もたれ近くの奥まで入れて座るだけでも、身体の形が変わりますよ。
Q. 深呼吸をすると、逆に苦しくなったり気持ち悪くなったりします。
頑張って大きく吸おうとしすぎている場合に起きやすい現象です。呼吸は「たくさん吸う」ことより「しっかり吐き切る」方を意識してもらう方が、楽に入ってくることが多いです。吐き切れば、次の空気は自然に入ってきます。それでも苦しさが続く場合は、無理に続けず、医療機関で相談してください。
Q. 猫背対策のグッズを使えば、呼吸も深くなりますか?
姿勢サポートグッズは、正しい形を思い出すきっかけとしては役立つことがあります。ただ、グッズで外から支えている間だけ形が変わっても、肋骨まわりや背中の硬さそのものが変わらなければ、外した瞬間に元に戻りやすいです。グッズは補助として使いつつ、身体を動かすケアと組み合わせるのが現実的だと思います。
まとめ
- 呼吸は、肋骨まわりと横隔膜が動くことで空気が入ってくる仕組み
- 背中が丸まった姿勢が続くと、肋骨まわりが縮こまり、入る空気の量が減りやすくなる
- 呼吸が浅い状態が続くと、お休みモードへの切り替えがしにくくなりやすい
- 自律神経は背骨の背中側を通っているため、背中の硬さも切り替えに関わる
- ケアのポイントは、胸を開く・わき腹を伸ばす・背中側で呼吸する・同じ姿勢を続けない
- 姿勢は「固定するもの」ではなく「動かし続けるもの」
息苦しさが強い場合、動悸や胸の痛みを伴う場合、階段を上がるだけで息切れが強く出る場合は、自己判断せず、まず医療機関を受診してください。心臓や肺、甲状腺などの病気が隠れている可能性もあります。
そして、検査で特に異常なしと言われたのに不調が続く方、そこからが当サイトの領域の出番です。あきらめる必要はありません。姿勢と呼吸は、日々の積み重ねで少しずつ変えていける部分です。
その不調、寝具のせいだけじゃないかもしれません。身体の状態を整えたうえで、自分に合った環境を選んでいきましょう。
※この記事の内容は一般的な情報提供であり、診断や治療の代わりにはなりません。
執筆・監修:けんぞう先生(整体師/施術歴23年・延べ4万5千人)