[#46]なぜ痛むのはいつも首と腰なのか|赤ちゃんの首すわりとお座りに答えがありました
肩や背中、お尻や太もも。身体にはたくさんの場所があるのに、痛みやつらさを訴える方が集中するのは、決まって首と腰です。施術の現場で23年、延べ4万5千人の身体を見てきましたが、この偏りは本当にはっきりしています。
なぜでしょう。
首と腰だけ、特別に弱く作られているのでしょうか。使いすぎているのでしょうか。
答えは、もっと根本的なところにあります。首と腰のカーブだけは、生まれつき備わっていたものではないからです。私たちは生まれたあと、自分の身体を使って、あとからこの2つのカーブを作りました。
「あとから作った」からこそ、そこにしわ寄せが来る。
今日はその話をします。少し遠回りに聞こえるかもしれませんが、赤ちゃんが首をすわらせ、お座りができるようになるまでの数ヶ月に、あなたの首こりと腰痛の答えがあります。
なぜ痛くなるのは、いつも首と腰なんでしょう
背骨は、首・背中・腰と縦につながった一本の柱です。特定の場所だけ材質が違うわけでも、極端に細いわけでもありません。
それなのに、つらさは首と腰に集まる。
この偏りには理由があります。それを説明するには、いったん赤ちゃんの話に戻る必要があります。
生まれたばかりの赤ちゃんの背骨は、ひとつのカーブしかありません
大人の背骨は、横から見るとS字を描いています。
- 首(頸椎)は、前側に反ったカーブ
- 背中(胸椎)は、後ろ側に丸いカーブ
- 腰(腰椎)は、また前側に反ったカーブ
この「反る・丸い・反る」の繰り返しが、S字カーブの正体です。
ではここで質問です。生まれたばかりの赤ちゃんの背骨は、どんな形でしょうか。
新生児の背骨は、全体がゆるやかに後ろへ丸まった、Cの字に近い形をしています。
抱っこしたときのことを思い出してみてください。生まれたばかりの赤ちゃんは、身体を丸めた姿勢が自然でしたよね。手足を縮めて、背中を丸めて、まるでお腹の中にいたときの形のまま。あれは癖ではなく、背骨そのものの形なんです。
このもともと備わっている後ろ向きの丸みを、一次湾曲と呼びます。生まれた時点で持っている、生来のカーブという意味です。
背骨のうち、この一次湾曲を持っているのは背中(胸椎)の部分。そして頭の後ろ側の骨と、骨盤の中央にある仙骨も、同じく後ろに丸い形をしています。
つまり赤ちゃんは、背中の丸みだけを持って生まれてくる。首と腰のカーブ(前弯)は、まだありません。
首すわりで、首のカーブが生まれます
だいたい生後3〜5ヶ月あたり。あの「首がすわった」と言われる時期です。
はじめにお伝えしておくと、この時期にはかなり幅があります。早い子もいれば、ゆっくりな子もいる。健診で毎回聞かれる項目なので気になりやすいところですが、目安として読んでいただければと思います。
うつ伏せにされた赤ちゃんは、周りを見たくて頭を持ち上げようとします。ボウリングの球ほどとまではいきませんが、身体に対して赤ちゃんの頭はかなり重い。それを持ち上げるには、首の後ろ側の筋肉を使って、首を反らせる必要があります。
これを毎日繰り返すうちに、何が起きるか。
首の骨が、前側に反ったカーブを獲得していきます。
Cの字だった背骨の、上の端の部分。ここが少しずつ反り返り、後ろ向きだった丸みが、前向きのカーブに変わっていく。これが頸椎の前弯、つまり首のカーブの誕生です。
「首がすわる」というのは、単に首の筋肉が強くなったという意味ではありません。背骨の形そのものが変わった瞬間なんです。
そしてこの新しく獲得したカーブを、二次湾曲と呼びます。生まれたあと、二番目に作られたカーブ、という意味です。
お座りで、腰のカーブが生まれます
次は、おおむね生後6〜8ヶ月あたり。おすわりの時期です。ここもやはり、月齢には大きな幅があります。
支えなしで座れるようになるには、上半身の重さを腰で支える必要があります。座った姿勢というのは、頭も、腕も、胸も、全部の重さが腰の一点に乗ってくる状態です。
Cの字に丸まったままの背骨では、この重さを支えきれません。前にぐしゃっと崩れてしまう。
だから赤ちゃんは、座ろうとするたびに腰を反らせて、上半身を立てようとします。それを何百回、何千回と繰り返すうちに——
腰の骨が、前側に反ったカーブを獲得していきます。
これが腰椎の前弯、腰のカーブの誕生です。二次湾曲の2つ目ですね。
この時点で、背骨は「反る・丸い・反る」の3つのカーブを持つことになります。大人と同じS字カーブの完成です。
赤ちゃんが生まれてから、およそ1年足らず。その間に人間は、四足歩行の動物にはない、二本足で立つための背骨を自力で作り上げているわけです。
生まれつきのカーブと、あとから作ったカーブ
ここまでを整理します。
| 場所 | カーブの向き | いつできた | |
|---|---|---|---|
| 一次湾曲 | 背中(胸椎)・後頭部・仙骨 | 後ろに丸い | 生まれつき |
| 二次湾曲 | 首(頸椎) | 前に反る | 首すわりのころ |
| 二次湾曲 | 腰(腰椎) | 前に反る | おすわりのころ |
そして冒頭の話に戻ります。
痛みやつらさが集中するのは、首と腰。つまり、あとから作った二次湾曲の場所です。
これは偶然ではありません。
生まれつき備わっている一次湾曲は、いわば身体の設計の土台部分です。基本的な形が決まっていて、そう簡単には変わりません。
一方、二次湾曲は「自分で作った」カーブです。ということは、環境や使い方によって、形が変わりうるということでもあります。
作れるものは、変えられる。変えられるということは、しわ寄せを引き受けられるということです。
この2つのカーブは、人間だけのものです
もうひとつ、知っておいていただきたいことがあります。
四本足で歩く動物の背骨には、この二次湾曲がありません。犬や猫の背骨を横から見ると、ゆるやかな一本の弧を描いています。彼らには、頭の重さを縦方向に支える必要がないからです。
二本足で立つと決めた人間だけが、首と腰のカーブを必要としました。
重い頭を、細い首の上にまっすぐ乗せる。上半身の重さを、腰から骨盤へ、そして脚へと流していく。この芸当を成立させているのがS字カーブです。カーブがクッションのように衝撃を分散し、骨から骨へと重さをバトンのように渡していく。
だから、歩くたびに脳が揺さぶられずに済んでいるわけです。
その代わり、私たちは代償も背負いました。カーブが崩れたときのしわ寄せが、首と腰に集中するという代償です。二本足で立つことと引き換えに手に入れた便利さの、裏側にあるものですね。
背中が丸くなると、あとから作ったカーブが補正を引き受けます
さて、大人の身体に話を戻しましょう。
デスクワーク、スマホ、抱っこ、授乳、お掃除、洗い物、車の運転。現代の生活で身体が取る姿勢には、ある共通点があります。すべて前かがみだということです。
前かがみの時間が積み重なると、背中の丸み——一次湾曲が、本来より強く丸まっていきます。いわゆる猫背の状態ですね。
ここからが本題です。
背中が丸まったままだと、どうなるでしょうか。顔が下を向いてしまいます。前を見ることも、まっすぐ歩くこともできません。
そこで身体は、なんとかバランスを取ろうとします。
- 背中が丸まった分、首を強く反らせて顔を前に向ける
- 上半身が前に倒れた分、腰を強く反らせて身体を起こす
つまり、一次湾曲(背中)の崩れを、二次湾曲(首と腰)が補正しているんです。
補正には力がいります。しかも一晩休めば終わりではなく、起きている間ずっと続きます。
首の後ろの筋肉は、頭が前に出た分を支え続ける。腰まわりの筋肉は、上半身が倒れる分を引き戻し続ける。
休憩なしで働き続けている場所に、つらさが出る。きわめて素直な話なんです。
そして本来なら、骨の並びで身体を支えられるはずでした。S字カーブがきれいに保たれていれば、重い頭も上半身も、骨から骨へと重さが流れて、筋肉はそれほど頑張らなくていい。
その仕組みが崩れると、筋肉が身体を支える役目を引き受けることになります。「骨で支える身体」から「筋肉で支える身体」へ。筋肉が休めなくなるのは、このときです。
だから、首だけ・腰だけ触っても変わりにくい
ここまで読んでいただければ、次の話も納得していただけると思います。
首がつらいから首を揉む。腰が痛いから腰を伸ばす。とても自然な発想ですし、その場は楽になります。ほぐれた直後の軽さは、確かに本物です。
けれど数日、早ければ数時間で戻ってくる。
理由は、もうお分かりですね。首と腰は補正をしている側であって、崩れの発生源ではないからです。背中が丸いままなら、首と腰は明日も補正を続けます。揉んでも伸ばしても、仕事の量は減りません。
ここは誤解されやすいので、はっきり書いておきます。
寝具には、大きな役割があります。眠っている間の寝返りは自分の意識では選べませんから、眠りに入るまでの姿勢を整えられるかどうかは、寝具の性能にかかっています。
ただ、寝具は身体の形そのものを変える道具ではありません。背中が丸く固まった身体は、どんなマットレスの上に乗せても、丸いままです。
だから順番が大事になります。身体の側を整えていく。そのうえで、自分に合った寝具を選ぶ。この順番だと、寝具への投資がちゃんと活きてきます。
逆の順番だと、「良いものを買ったのに変わらない」という結果になりやすい。お父様のケースは、まさにこのパターンかもしれません。
そして、私たちが本当に見るべき場所は背中側です。首と腰は結果であって、原因ではないことが多い。ここに気づけるかどうかが、長年のつらさと付き合っていくうえで大きな分かれ目になります。
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▶ 枕を変えても肩こりが取れない人へ|実はマットレスとの相性かもしれません
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では、背中側に何ができるのでしょうか
背中が丸くなるのは、丸めた姿勢でいる時間が長いからです。裏を返せば、丸めていない時間をどれだけ作れるかが勝負になります。
「戻す時間」を1日に何度も差し込む
背中を丸めた姿勢を1時間続けたあと、10分間かけて丁寧に伸ばす。これも悪くはありませんが、実は効率がよくありません。
それより、30分に1回、10秒だけ背中を伸ばすほうが身体には届きます。固まりきる前にリセットするほうが、固まったものを戻すよりずっと楽だからです。
赤ちゃんが首すわりのカーブを獲得したのも、1回の猛特訓ではありませんでした。毎日、何度も、頭を持ち上げる。その積み重ねで形が変わっていった。大人の身体も同じ理屈で動きます。
具体的には、こんな時間の使い方です。
- 立ち上がったついでに、両腕を後ろに引いて胸を開く(10秒)
- 授乳やスマホのあとに、一度天井を見上げる(5秒)
- 椅子に座り直すたびに、背もたれから背中を離して座り直す
大げさな運動である必要はありません。丸まった時間の合間に、まっすぐの時間を挿し込む。それだけです。
胸を開く意識が、首と腰の仕事を減らします
背中側が少しでも起きてくると、首は頭を前で支える必要が減ります。腰は上半身を引き戻す力を減らせます。補正の仕事量が下がるわけですね。
首と腰を直接ケアするより遠回りに見えますが、こちらのほうが結果的に近道になることが多いです。
睡眠時間は、味方にも敵にもなります
もうひとつ大事なのが、眠っている間の時間です。
睡眠は本来、日中に崩れた骨格と溜まった疲れをリセットするための時間です。ところが、丸まった姿勢のまま一晩過ごすと、リセットどころか、その形のまま固定される時間になってしまいます。
1日のうち6〜8時間。人生の3分の1です。この時間をどちらに使うかで、積み重なるものが変わってきます。
丸まって眠ると、失うものが2つあります
ここで、多くの方がやってしまっている姿勢の話をします。
横向きで、背中を丸めて、膝を胸に引き寄せて眠る。いわゆるダンゴムシのような姿勢です。楽に感じる方が本当に多いのですが、この形で一晩過ごすと、2つのことが同時に起きます。
ひとつめは、姿勢の話です。
丸めた背中と、内側に入った肩。日中に作られた猫背と巻き肩の形が、そのまま一晩キープされます。リセットの時間になるはずが、その形で固める時間になってしまう。翌朝も同じ形から1日が始まり、また丸めて眠る。この繰り返しが積み重なっていきます。
ふたつめは、めぐりの話です。
ダンゴムシの姿勢では、背中だけでなく股関節と膝も深く曲がったままになります。曲げた場所は、内側が圧迫されます。脚の付け根と膝の裏には、血液やリンパが通る道が集まっている場所です。
そこが折りたたまれた状態が数時間続けば、流れは滞りやすくなります。朝起きたときの脚の重だるさや、身体の冷えを感じやすい方は、寝ている間の姿勢を一度疑ってみる価値があります。
着圧ソックスは、日中に溜まったものを絞り出す目的なら理にかなっています。ただ、お風呂上がりから就寝までの時間帯は、身体がいちばん流れやすい状態になっているとき。そこを締めて止めてしまうのは、もったいないんです。丸まった姿勢と重なれば、なおさらですね。
このあたりは、それぞれ別の記事で詳しくお話ししています。心当たりのある方は、そちらも読んでみてください。
だからこそ、眠りに入るときの姿勢を整えることには意味があります。そしてそこで、寝具が役に立つわけです。順番を守れば、寝具はちゃんと働いてくれます。
よくあるご質問
Q. 一次湾曲・二次湾曲という言葉は、病院でも使われますか?
発達や解剖の分野で使われる考え方です。ただ、日常の診察でこの言葉が出てくることはあまり多くありません。「背骨のS字カーブ」という説明のほうが一般的です。
Q. 大人になってから、背骨のカーブは変えられますか?
骨そのものの形が短期間で変わることはありません。ただ、カーブの見え方を左右しているのは、骨のまわりの筋肉の状態や、日々の姿勢の積み重ねです。ここは年齢に関わらず、働きかけの余地があります。
Q. 子どもの猫背が気になります。大人と同じように考えていいですか?
成長期の身体は、大人とは条件が違います。姿勢の癖として気になるレベルなのか、それとも医学的な確認が必要なレベルなのか、まずは小児科や整形外科でご相談ください。判断を自己流で進めないほうが安心です。
そのうえで、日常のことをひとつだけ。
子どもにスマホやタブレットを渡すと、たいてい手元に持って、下を向いた姿勢で見ることになります。この形は、まさに背中を丸めて頭を前に落とした姿勢そのものです。
ここまで読んでいただいた方なら、なぜ気になるかお分かりだと思います。子どもの首と腰のカーブは、まだ作られている途中です。大人が「崩れたものを戻す」段階にいるのに対し、子どもは「これから形が決まっていく」段階にいる。同じ姿勢でも、意味合いが変わってきます。
とはいえ、動画やタブレットを一切なしにするのは現実的ではありませんよね。私も無理だと思います。
大事なのは時間より角度です。手元に持たせるのではなく、台に立てて目線の高さに近づける。テーブルに置くなら、スタンドを一つ挟むだけで首の角度がまったく変わります。
この「目線の高さ」の考え方については、別の記事で詳しくお話ししています。大人向けに書いた記事ですが、そのまま子どもにも当てはまる話です。
Q. 首すわりやおすわりが遅いと、将来の姿勢に影響しますか?
発達のペースには個人差が大きく、遅い=将来の不調につながる、と単純に結びつけられるものではありません。発達に不安がある場合は、乳幼児健診や小児科での相談が第一です。
Q. 猫背を意識して伸ばすと、腰が反ってしまいます。
とてもよくあるご相談です。背中が丸いまま胸だけ張ろうとすると、腰の反りで帳尻を合わせることになりがちです。この「合体」の状態については、別の記事で詳しくお話ししています。
こんな時は、まず医療機関へ
次のような場合は、姿勢や寝具の話より先に、医療機関で診てもらってください。
- 手足のしびれや、力の入りにくさがある
- 強い痛みで日常生活が送れない、夜中に痛みで目が覚める
- 転倒やケガのあとから症状が出ている
- 発熱をともなう痛みがある
- 尿や便が出にくい、感覚に違和感がある
- 安静にしていても痛みが強くなっていく
- 赤ちゃんの首すわり・おすわりの発達に不安がある場合は、小児科や乳幼児健診でご相談ください
これらは整形外科などで検査を受けるべき状態です。
まとめ——あなたの背骨にも、獲得の順番がありました
最後に、要点をまとめます。
生まれたばかりの赤ちゃんの背骨は、Cの字のひとつのカーブしかありません。背中の丸み(一次湾曲)だけが、生まれつき備わったものです。
首のカーブは首すわりのころに、腰のカーブはおすわりのころに、赤ちゃん自身が獲得します。これが二次湾曲。生まれたあとに、自分の身体を使って作ったカーブです。
つらさが集中するのは、この二次湾曲の場所——首と腰です。あとから作ったカーブだからこそ、環境や使い方で形が変わり、しわ寄せを引き受けられてしまいます。
背中が丸く固まると、首と腰がその分を補正し続けます。首の筋肉は前に出た頭を支え続け、腰の筋肉は倒れた上半身を起こし続ける。休みなく働いている場所に、つらさが出るのは自然なことです。
だから、首だけ・腰だけをほぐしても、戻ってきます。補正をしている側をいくらケアしても、補正させている原因が背中側に残っているからです。
あなたの背骨にも、獲得の順番がありました。うつ伏せで頭を持ち上げた日、支えなしで座れた日。その積み重ねが、今のあなたの背骨の形を作っています。
そして形は、これからも作られていきます。今日どんな姿勢で過ごしたかが、明日の背骨の形になる。これは不安な話ではなく、希望のある話だと私は思っています。作れるものは、変えていけるからです。
強い痛みやしびれ、動けないほどの症状がある場合は、まず整形外科などの医療機関を受診してください。
そして、検査で異常なしと言われたのに不調が続く方。そこからが当サイトの領域の出番です。あきらめる必要はありません。
その不調、寝具のせいだけじゃないかもしれません。身体の状態を整えた上で、自分に合った環境を選ぶことが大切です。
※この記事の内容は一般的な情報提供であり、診断や治療の代わりにはなりません。
執筆・監修:けんぞう先生(整体師/施術歴23年・延べ4万5千人)

