こんにちは、整体師のけんぞうです。

「肩の力を抜いてください」 「もう少しリラックスしてください」

そう言われて、どうしたらいいかわからなくなったことはありませんか。

自分では力を抜いているつもり。頑張っているつもりもない。それなのに、肩や背中はずっと硬い。布団に入っても身体が休まらず、「もっと力を抜かなきゃ」と考えているうちに、かえって疲れてしまう。

そんな方に、私がまず意識してもらいたいのは「息を吐く」ことです。

鼻からゆっくり、ぐぐーっと吸い込んで、吐くときは口からストンと、ため息をつくみたいに吐く。

私はこれを「脱力の呼吸」と呼んでいます。名前だけ聞くと、鬼滅の刃みたいですね。でも、ここで目指すのは力を込めることではなく、手放す感覚です。

この記事では、なぜ力を抜いたつもりでも抜けないのか、そして私がなぜ「吐く」に目を向けてもらうのかをお話しします。ビーチボールやゴムボートを思い浮かべながら、読んでみてください。

力が入っていることが、いつもの状態になっていませんか

みなみ
みなみ 先生、「力を抜いて」と言われると、私、困るんです。抜いているつもりなのに、「まだ入っていますね」と言われると、もうどこをどうしたらいいのか……。
けんぞう先生
けんぞう先生 自分で力を入れている感覚がないのに、抜いてくださいと言われても難しいですよね。私が見ているのは、すでに筋肉の緊張が強くなって、力が入っているのか抜けているのか、その違いがわからなくなっている状態です。

力が抜けない人を見ていると、呼吸が浅い、身体の使い方の癖が強い、休もうとしてもリラックスモードになりにくい、睡眠の質が悪いと感じている、といったことが重なっています。

私は、そうした状態を考えるとき、自律神経の交感神経が優位になっている「緊張モード」という視点も大切にしています。

ただ、肩の硬さや浅い呼吸だけで、自律神経の状態を診断できるわけではありません。ここでお話ししているのは、私が身体を見るときの考え方です。

みなみ
みなみ ずっと力が入っていると、それが普通になってしまうんですね。「抜いているつもり」と「実際に抜けた感覚」が、違うこともあるんだ。
けんぞう先生
けんぞう先生 そうです。むしろ実際の現場では「抜いているつもり」と「実際に抜けた」には大きな隔たりがある方がとても多いです。だから、最初から「もっとリラックスしなさい」と頑張ってもらうより、身体の感覚に気づく入口をつくりたいんです。そこで、まず呼吸。その中でも、息を吐くことを意識してもらいます。

私は、力が抜けないことを性格や気合いの問題だけで片付けたくありません。身体の使い方や呼吸が、いつの間にかいつもの形になっている。その状態を、本人が感じ取るところから始めたいと思っています。

緊張が続く身体については、ストレスが抜けない身体は、なぜ肩や背中が硬くなるのかでもお話ししています。今回は、その話の中でも「どうやって力を手放す感覚に近づくか」に焦点を当てます。

パンパンのビーチボールは、そのまま折り畳めない

空気が入ったビーチボール・ゴムボートと、空気を抜いて畳んだ状態の対比
みなみ
みなみ 呼吸を意識するというと、「たくさん吸う」のほうを考えていました。まず吐くことが大事なんですか?
けんぞう先生
けんぞう先生 私がここで伝えたいのは、体内に空気がいっぱいの状態では力が抜けない、という感覚です。ビーチボールやゴムボートを思い浮かべてみてください。空気がパンパンのままでは、折り畳んで片付けられませんよね。
みなみ
みなみ わかります。小さくまとめたくても、膨らんだままだと全然まとまらないですよね。
けんぞう先生
けんぞう先生 空気を抜くから、折り畳めるんです。私は、身体の脱力を説明するときも、そのイメージを使っています。「もっと力を抜こう」と身体を押さえつける前に、まず息を吐くことに目を向けてほしいんです。

パンパンのビーチボールを、小さくしようとして外側から一生懸命押す。でも、空気が入ったままなら、なかなか思うようになりません。

力を抜こうとしているのに、別のところで力を使ってしまう。そんな感覚を考えるときに、私はこの例えを使います。

もちろん、人の身体はゴムボートそのものではありません。この例えは、肺の空気を全部抜けば身体が柔らかくなるという説明ではなく、「吐いて、手放す感覚」をつかむためのものです。苦しくなるまで空気を吐き切る必要はありません。

みなみ
みなみ 「力を抜かなきゃ」と考えているとき、私、眉間まで頑張っている気がします。ビーチボールを無理やり押している感じかもしれません。
けんぞう先生
けんぞう先生 そういうときほど、いったん「抜かなきゃ」から離れて、息を吐いてみてほしいんです。呼吸まで頑張る作業にしないことが大切です。

息を吸って止めた身体と、吐いた身体の違い

私がこの感覚を説明するときに使うのが、前屈の話です。

息を大きく吸い込んで、そのまま止めた状態では、身体を前に折り曲げるのは難しい。反対に、息を吐くと、ふにゃふにゃと身体を折り曲げられる。私はこの違いを、脱力のイメージとしてお伝えしています。

みなみ
みなみ 息を止めたまま何かをしようとすると、身体を固めている感じはあります。前屈も、伸ばそうとして必死になったときほど、呼吸を忘れているかもしれません。
けんぞう先生
けんぞう先生 「もっと曲げなきゃ」と頑張る前に、息を止めていないかを見てほしいんです。私が伝えたいのは、どこまで曲がるかを競うことではなく、吸って止めたときと、吐いたときの感覚の違いです。

ここで前屈をする必要はありません。腰や背中に痛みがある方、動きに制限がある方は、無理に試さないでください。身体の動きやすさには、筋肉や関節の状態など、呼吸以外の要素も関わります。

私がこの記事で届けたいのは、「息を吐けば誰でも前屈できる」という判定方法ではありません。力を入れてしまう自分に気づくために、呼吸という入口がある、という話です。

みなみ
みなみ 柔らかさを測るためじゃなくて、力を使い続けていないか、自分で気づくための話なんですね。
けんぞう先生
けんぞう先生 はい。力を抜くつもりで、もっと力を使ってしまっていないか。そこに気づいてもらいたいんです。

「脱力の呼吸」は、鼻から吸って、口からストン

鼻からゆっくり吸い、口からため息のようにストンと吐く流れ

私が普段お伝えしている「脱力の呼吸」は、次の形です。

鼻からゆっくりぐぐーっと吸い込んで、吐くときは口からストンとため息つくみたいに吐く。

みなみ
みなみ ゆっくり吸うのはわかります。でも、吐くのは「細く長く」ではないんですね。
けんぞう先生
けんぞう先生 ここで意識してほしいのは、ため息をつくように、ストンと吐くことです。「上手に吐かなきゃ」「長く吐かなきゃ」と、吐くことまで頑張ってほしくないんです。
みなみ
みなみ 一日の終わりに「はあ……」と息が出る、あの感じですか?
けんぞう先生
けんぞう先生 そのイメージです。思い切り空気を押し出すことではなく、ため息みたいに手放す。鼻からゆっくり吸って、口からストン。私が「脱力の呼吸」で伝えたいのは、その切り替えです。

実際に試す場合は、楽に過ごせる姿勢で、無理のない範囲にしてください。「ぐぐーっと」は、苦しくなるまで吸い込むことではありません。息を止めたり、たくさん吸うことを繰り返したり、最後まで吐き切ろうとしたりする必要はありません。

鼻が詰まっている、鼻から吸うと苦しい、といったときも、形にこだわって無理をしないでください。治療中の方や呼吸について指示を受けている方は、主治医の指示を優先してください。

試していて、めまい、しびれ、息苦しさなどが出たら中止して、普段の呼吸に戻します。頑張って続ける場面ではありません。

英国の公的医療機関NHSも、ストレスのための呼吸練習では、呼吸を無理に深くしないこと、楽な範囲で行うことを案内しています。この点は、私が紹介する方法でも大切にしたいところです。NHSの呼吸練習の案内

呼吸を動かす主役は、横隔膜

肺の下のドーム状の横隔膜と、吸う・吐くときの鼻や口から肺への空気の流れ

呼吸の時に動く筋肉を総称して「呼吸筋」と呼びます。そしてその呼吸筋のメインの筋肉は口でも鼻でもなく「横隔膜」なのです。横隔膜、聞いたことはあるけど、どこにどのような形で存在し、どういう動きをしているかわかりますか?イラストの通りです。肺の下で胸とお腹を隔てる、ドーム状の筋肉です。そして呼吸運動というのは、口や鼻で行うものではなく、横隔膜が縮んで下がると、胸の中の空間が広がり、肺が膨らんで空気が入ってきます。そこに空気が流れ込んでいく。安静にしているときは、横隔膜が緩んで上へ戻り、肺や胸郭が元に戻ろうとする力で、鼻や口から空気が出ていきます。これが、身体で空気を出し入れする呼吸の基本的な仕組みです。

なぜ私は、鼻から吸って、口から吐くと伝えるのか

みなみ
みなみ 吸うのも吐くのも口、ではないんですね。入口と出口を分けているのには、理由があるんですか?
けんぞう先生
けんぞう先生 口から吸い込むと喉が乾燥しやすく、胸式呼吸になりやすい。なので、腹式で深く吸い込めるように、私は鼻から吸うとお伝えしています。吐くときは、脱力するための「出口の大きい口から」という考え方です。

これは、私が「脱力の呼吸」を伝えるときの説明です。鼻から吸えば必ず腹式呼吸になる、口から吸えば必ず胸式呼吸になる、という分類ではありません。鼻か口かという空気の通り道と、胸やお腹がどう動くかは、同じことではないからです。

みなみ
みなみ 鼻から吸うことだけを守れば、全部できているというわけではないんですね。
けんぞう先生
けんぞう先生 はい。形を守るために、苦しい呼吸をする必要はありません。まずは、無理なく吸えているか。そして、吐くときまで力を使い続けていないか。その感覚を見てほしいんです。

吐く出口の話も、ゴムボートを思い浮かべると伝わりやすいと思います。

小さな出口から、少しずつ空気を抜いて片付ける。なかなか空気が抜けず、時間がかかりそうですよね。私が「口から」とお伝えするのは、出口を大きく開けて、手放しやすくするイメージです。

みなみ
みなみ 小さく口をすぼめて、「ふーっ」と一生懸命押し出すのとは違うんだ。
けんぞう先生
けんぞう先生 そうです。私がここで伝えているのは、空気を押し出すための頑張りではありません。ため息をつくみたいに、ストンと吐く。そのイメージを、ゴムボートの出口に重ねています。

呼吸法には、鼻から吐くもの、ゆっくり吐くものなど、目的や状況に応じたさまざまな方法があります。ヨガでも方法は一つではありません。別の方法を間違いとするのではなく、この記事では私が脱力の入口として伝えている方法を紹介しています。

寝る前に「リラックスしなきゃ」と頑張っていませんか

みなみ
みなみ 私、布団に入ると「今日はちゃんと寝なきゃ」「早く力を抜かなきゃ」と考えてしまうんです。休む時間なのに、またやることが増えている感じで。
けんぞう先生
けんぞう先生 休むことまで課題にしてしまうと、疲れますよね。寝る前も、まずは息を止めていないか、吐くことを忘れていないかに目を向けてみてほしいです。

「脱力の呼吸」を、睡眠の成績を上げるための宿題にしてほしくありません。

何秒吸ったか。何秒吐けたか。何回できたか。今日は前より上手だったか。そんな採点を始めると、また別の頑張りが増えてしまいます。

私が今回お話ししたいのは、力を抜けない自分を責める前に、呼吸を見てみるということです。息を吐くことが、自分の身体に気づくきっかけになればと思っています。

みなみ
みなみ やったのに眠れなかったら失敗、という話ではないんですね。
けんぞう先生
けんぞう先生 もちろんです。この呼吸で必ず眠れるとお約束することはできません。眠れない理由は一つではないですし、息を吐くことだけで全部を解決しようとしなくていいんです。

呼吸の浅さと姿勢の関係が気になる方は、呼吸が浅いのは姿勢のせい?ため息が増えた人の身体で起きていることも読んでみてください。

仰向けになると落ち着かないという方には、仰向けで寝れない・落ち着かないのは心理より身体もあります。この記事だけで考え切ろうとせず、ご自身の困りごとに近い話へ進んでもらえればと思います。

こんな時は、まず医療機関へ

呼吸が浅い、身体の力が抜けないという感覚を、すべて姿勢や緊張の問題と決めつけないでください。

  • 急な、または強い息苦しさや胸の痛みがある
  • 呼吸のしづらさが続く、悪化する
  • 呼吸を試して、めまいやしびれ、気分の悪さが出る
  • 眠れない状態や日中の強い眠気が続き、生活に支障がある
  • 大きないびきや、寝ている間に呼吸が止まることを指摘されている

こうした場合は、呼吸法だけで対処しようとせず、医療機関へ相談してください。突然の強い息苦しさや胸の痛みなど、緊急性が疑われる場合は、救急の対応を優先してください。

力を抜くために、もっと頑張らなくていい

みなみ
みなみ 「力を抜いて」と言われてもわからなかった私にとって、ビーチボールの話はイメージしやすかったです。外から押して小さくしようとする前に、まず空気を抜くんですね。
けんぞう先生
けんぞう先生 はい。力を抜こうとして、もっと力を使っていないか。息を吸うことばかり考えて、吐くほうを忘れていないか。まず、そこに気づいてほしいんです。

鼻からゆっくりぐぐーっと吸い込んで、吐くときは口からストンとため息つくみたいに吐く。

「脱力の呼吸」は、私がその感覚を伝えるためにつけた名前です。力が抜けないからといって、リラックスする能力がないと決めつけないでください。

ずっと緊張している身体にとって、力を手放す感覚がわからなくなることもある。だから私は、「もっと上手に抜いてください」と頑張らせる前に、息を吐くという入口をお伝えしたいんです。

強い痛みや息苦しさがある場合、眠れない状態が続いている場合は、まず医療機関での相談を優先してください。

検査で異常がないと言われても、身体が休まらない、力が抜けないという悩みが残ることはあります。その場合も、必要な医療相談を続けながら、自分の呼吸や身体の使い方に目を向けてみてください。悩みを一人で抱え込む必要はありません。

その不調、寝具のせいだけじゃないかもしれません。私は、身体の状態を知り、その身体に合った環境を整えることを大切にしています。まずは息を吐くところから、自分の身体に気づくきっかけをつくってみませんか。

※この記事の内容は一般的な情報提供であり、診断や治療の代わりにはなりません。